今年の5月ごろから企画を立てていた、「コスモ・コルプス(Cosmo Corpus)」という映画の一篇、「未来篇(ユイ篇)」の佐渡ヶ島での撮影が先日無事、終了しました。 二年ほど前から家族ぐるみで交流させていただいているユイちゃんと、15年前に自分の未完になってしまっている人魚の映画に出演していただいた、野澤健さんに(リベンジ的に?)出演をお願いしました。 撮影は、『デュアル・シティ』ではCGディレクターをお願いした守屋雄介君に担当していただき、技術、精神両面に渡り、その無尽蔵の好奇心と行動力で、映画作りの神秘的なものを一緒に目撃できました。 美術は、さどの島銀河芸術祭に続いて、「一万年後の未来」という共通のモチーフで、山井隆介君に山井君らしい壮大で無限に奥行きのある世界を作ってもらいました。 この三人で5月にロケハンをしたのがこの映画の最初期で、その時に守屋君のおかげで佐渡の南側である小木という町の、iroという宿を知ることになり、そこのオーナーである横山裕子さんという大きなサポーターと出会えたことは、この映画のこの篇の「成功」の大きな要因だったと思ってます。 この「成功」と言うのには色々な意味があるし、元の意味からもズレてそうだけれど、自分としては、後述する理由から、この「ユイ篇」はものすごく成功をした、と感じています。 閑話休題***オタク用の情報として、 撮影前に共有したものとしては、 ・お能の『融』 ・ロバート・スミッソンの、"Spiral Jetty"(自分の場合、主に映画の方。山井君が元々彼のアースワーク、ランドアートが好きで紹介してもらい、映画「Spiral Jetty」を近代美術館で見てぶっ飛んだ。) ・松澤宥の「Ψの部屋」(...これも山井君のお誘いで、物理的に存在しなくなる前の、「Ψの部屋」に入らせていただいたことがあります。部屋に滞在していた時の感覚は今でもあらゆるものの指標になっている気がしますし、他にも...大量にあるカッコ良すぎる未発表の習作、本棚にあるSFや科学関係の書物、松澤さんを知る方々の言葉など、自分にとってアートという存在がどういうものであるべきかを定義する、とても貴重な体験となっています。来年の長野の美術館での展示もとても楽しみです。) ・最近ではEduardo Williamsさんの映画、"Human Surge"や"Could See a puma"のことははっきりと明言しながら作っていました。 ・また、形式的には似ていないので、誰にも言わなかったけれど、『禁じられた遊び』と言う映画が自分はすごく好きで、ああいった子供だから可能なのかもしれない、タブーな領域に大胆に踏み込んだ上での哲学性(疑問)、それ以上差し引けないパッションというか関係のダイナミズムというのかが、滲み出る映画にしたいと考えていました。 最後に、 ・2008年(?)に見た、ピナ・バウシュ「フルムーン」の日本公演。松澤さんの部屋へ行った体験も、鑑賞という厚いベールを超えたものでしたが、ピナ・バウシュはまさに直に自分の存在に関わってこようとするような爆発性があって、芸術に期待できるもののハードルがめちゃくちゃに上がりました。 また子供と遊んでいると、不意に、「カフェ・ミュラー」の、部屋の中を眠ったまま歩く(?)女性が転ばないように、彼女の行手にある椅子を無我夢中でどけ続ける男の人を思わせるような光景に出くわすこともたびたびありました。 それも、大人は誤魔化してしまっているが、子供がはっきりとした形で教えてくれるものに目を向けるきっかけになったように思います。 数年前から、自分の年代もあり、友人のうちへ遊びに行った時などに、友人自身やその周りの子供と接する機会が増えてきました。 友人たちも個性豊かなので子供たちも本当に面白いし、 時の流れが因→果だけではなく、果→因の方向にも絶対流れているに違いない..、 と自分が思うきっかけになるような相互の影響が、彼彼女らと友人たちの間には感じられてとても興味深かった。 最初、この映画は『融』というタイトルで、お能が原作でした。(です。) 思想や人物の構想している莫大な夢という形でCosmo Corpusにも遺ってはいますが、こちらの登場人物は男性二人です。 そこから、補助線として引いた「一万年後の未来」というテーマについて考えるとき、遊ぶたびに驚きや、神秘的な気持ちを与えてくれるユイちゃんが、宇宙にいる様子、地球と出会う瞬間がパッと思い浮かびました。 また、野澤さんには、とにかく深い感情、それこそ地球から人がいなくなって100年200年と生きている人の持つはずの、難しいエモーションを表現する役割を、担ってもらおうと思っていました。 ユイちゃんを今撮ることに迷いはなかったが、子供を映画に出演させることの現実面での危険な影響は、撮影中も頭を去ることはなかった。事故の可能性、カメラの前で演じること自体の不自然性、大人の指示を聞かせることの歪さ、夜更かしをさせたり朝早く起こしてしまったりなどなど。自分が幼い頃感じていたような違和感を、ユイちゃんにはできる限り抱いてほしくなかった。 救いは参加してくれた大人たちの考え方でした。 自らもキャスト、スタッフとして参加してくれた純子さんや、功(いさお)さんは、誰よりもユイちゃんのことを考えた上で、仕事でもなく、狭い視野の愛情でもなく、もっと大事な理由のために、判断してくれていると感じていました。 具体的には、「ユイちゃんと私(他者)との(歳の差は相当あるものの)信頼関係」や、「共同の、すごく価値のある世界の創造」。 それを最大限に尊重して、一役も二役も買って出てくれた上で、私が至らないところははっきりと言って、ユイちゃんを守ってもくれていた。 私はユイちゃんを子役ではなく、天性のセンスを持ったアーティスト、宇宙との繋がり(恐怖も含め)、世界の美しさを教えてくれる存在だと感じている。じゃないとしょうがないなと思い、諦めていたこともあったと思う。でもユイちゃんだったらと思って、諦めたくなかった。そう言ったことをこれからも伝え切れるように、全力を出して関わっていきたい。 最後は息を飲むような神々しいシーンだった。自分は本当に一言彼女に言うだけだった。佐渡ができた頃、まだ名前のなかった島の時代に行われていた儀式を見るかのようだった。まるで無人のような地球、それは、新しいからこその孤独と、エネルギーに満ち満ちた惑星だった。こうして死んでいき、また生まれてくるのだなと海で、ブルーアワーのむせかえるような空気のなかで、感じていた。こういうもの、純粋さ、始まり、を自分が見たいから、映画を撮っているのだなとも。 そういった瞬間を感じられたから、自分には大大大成功の撮影だった。 皆が帰っていく日、じゅんちゃんから、「ヨクナ!車が動かない。これはどう言うことだろう?笑」と連絡があった。近くのホテルに泊まっていたいさおさんと野澤さんは歩いて我々が泊まっていたiroまで来てくれて、状況を説明してくれ、これから(車が動かなくなった時に電話する会社)(?)を呼んでみると言う。 昨日までなんともなかったのに、今日エンジンをかけてみたら、全くかからなくなっているのだと言う。 しばらく騒然としながら待っていると、裕子さんが近くで見つけてくれて、じゅんちゃんとユイちゃんがiroまでやってきた。焦っているのかと思いきや、じゅんちゃんはやっぱり満面の笑みで、私も笑ってしまった。 「ヨクナ!私たち、引き止められちゃったよ〜。でもね、ちょっと嬉しいんだ。ほんとに帰りたくなかったからさぁ。」 真っ白な明るい外から宿の中へ入りながら、少し照れてるような、ワクワクしているような様子で話すじゅんちゃんは、ユイちゃん以上に少女のようだった。 「お参りに行こうか?」と私が言うと、「お参りはたくさんしたんだよー」とじゅんちゃんが言うので、裕子さんが「お参りしたから気に入られちゃったのかもね。」と付け加えてくれ、なんとなく納得してしまった。ユイちゃんは昨日の熱演とはうって変わって、ずっと絵を描いていた。ホラー好きのじゅんちゃんが、『佐渡の怖い話』という本をすでに片手に持っていたので、乙和池やキリシタン塚、アリガタヤさん達など、自分がこれまで興味を持ってきた、佐渡にまつわる霊的な話をして、以心伝心とか、昔はあったかもしれないのになくなっていくものについて話した。こうして思いがけなく、まだ1日の中の早い時間帯に、みんなでゆっくり過ごすことができた。 その後の展開はなんともまた、不思議なものだった。別行動で車を直そうとしていた、いさおさんから、「エンジンがかかった!」との一報があり、近くの駐車場へ行ってみると、白昼の中、ドアが開いたベンツを前に、Tシャツ姿のいさおさんがいて、みんなに説明をしてくれた。 「ずっとかからなくてさ、でも、最後の最後に、エンジンの場所がこの辺にあるんだけど、ここを外から叩いてみてください、って言われて。 でもこう言うのって、生きた技術だからさ、できるかわかんなかったんだけど。車屋さんが叩いてくれて。そしたら、かかったの。 でも、このままエンジンかけっぱなしにして走ってくださいだって。」 次は、「現代篇(中学生篇)」と「未来島、過去島篇」。 これから色々本格的になっていくと思うのですが、現在も、佐渡在住のエキストラさんや、出演者を募集中です。 現場写真撮影:JUNK THE RiPPER ロケ地は、佐渡の素浜、小木、二つ岩、椿尾石切場(山口・才の神丁場)、岩場なのは万畳敷、宿根木。他に小木民俗博物館、小木小学校のご協力をいただいています。 まだまだ大量に撮ってもらえたのでこれからも少しずつシェアさせていただきたいです。 コスモ・コルプス 未来篇(ユイ篇) ユイ:佐久間ユイ ケン:野澤健 未来人:JUNK THE RiPPER 監督:長谷川億名 撮影監督:守屋雄介 美術制作、監督:山井隆介 照明:日下竜吾 照明助手:石井せいじ 録音、サウンドエンジニア:佐久間功 現地コーディネーター、制作:横山裕子 協力:さどの島銀河芸術祭、フィルム・コミッション佐渡事務局、小木の宿 iro
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September 2024
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